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小川琢治(5ページ、教授)(36k 分子研リポート2003 | 分子科学研究所

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Academic year: 2018

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分子スケールナノサイエンスセンター

分子金属素子・分子エレクトロニクス研究部門

小 川 琢 治(教授)

*)

A -1)専門領域:有機化学、分子スケールナノサイエンス

A -2)研究課題:

a) サブマイクロメータ長π共役ポルフィリンワイヤーの合成と表面上での自己組織化 b) 粗表面で分子像観察可能なポルフィリンワイヤーの合成と,その単分子電気特性の計測 c) レドックスアクティブな有機金属錯体を用いた単電子素子の構築

d) 有機金属ポリマーでつないだナノギャップ電極の電気特性の研究 e) 有機分子の構造を利用した金ナノ粒子の自己組織化の制御

f) ナノ球リソグラフィーを利用したナノ構造体の構築とその物性の研究 g) 多探針電導性原子間力顕微鏡(分子スケールプローバー)の作成

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) 原子レベルの精度の設計が可能で,しかも巨視的な(マイクロメーターからミリメーター)大きさを持つ構造体の作 成法の確立は,ナノサイエンスの基盤となる重要な課題である。これを,有機合成的手法と分子の自己組織化能を利 用して実現しようとした。まず,直径が約 1 nm,長さが 100∼ 500 nm程度のポルフィリンワイヤーを合成し,これを キャスト法でグラファイト上に展開し原子間力顕微鏡で観察したところ,展開条件により①高さ約0.4 nm,鎖間距 離約 5 nmで並んだ矩形構造体,②高さ約 0.4 nm,鎖間距離約 10 nmで並んだ構造体,③高さ約 1.0 nm,鎖間距離約 15 nmで並んだ構造体の3種類ができることがわかった。高さが分子力場計算で求めた値(約1 nm)より低いのは,基盤 上での吸着と,原子間力顕微鏡のカンチレバーによる圧縮のためと考えられる。①の構造体は,分子鎖が1本ずつグ ラファイト表面に並び,表面上で分子鎖が横に広がって横の分子鎖との疎水相互作用により構造体を形成した物と 考えている。②の構造体は,①の構造体の上に2層目の分子鎖が並んだもので,1層目の分子鎖の影響で2層目分子 同士の疎水相互作用が減り分子鎖間の反発により,1本おきに並んだ物ではないかと考えている。③の構造体は,高 さがおよそ2倍になっていること,分子鎖間の距離が①のおよそ3倍になっていることなどから,分子鎖が2∼3 本絡み合いバンドルとなり,これが並んで組織体を作った物と考えている。こうした巨大分子は,1 nm以下の小さ な分子とは異なる複雑な自己組織体を生じる点で大変興味深い。巨大分子の構造を直線以外の物にした場合の自己 組織化を現在検討中である。

b) 単一分子の電気伝導度測定は既に2∼3の研究例が報告されているが,実際に単一分子を計測しているとの証拠は, いずれの場合も間接的なものしかなく,走査プローブ顕微鏡などで単一分子像を確認しながらの電気伝導性の測定 例はない。分子像を観察しながら,電気伝導を計測する手法としては,後述する多探針電導性原子間力顕微鏡を用い る方法,蒸着電極および1探針電導性原子間力顕微鏡を用いる方法,ナノギャップ電極を用いる方法を考えた。いず れに方法でも,分子の長さが100 nm以上ないと計測が困難である。また,ナノギャップ電極を用いる方法や,ゲート 電極を使う実験では,その計測基板が原子レベルでは平坦でなく1 nm程度の凹凸がある。そうした粗い表面上でも

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分子像が観察できるように,分子ワイヤーの直径が分子力場計算による見積もりで約5 nmの物を設計した。デンド ロン保護されたジアセチレン連結ポルフィリンワイヤーの合成を行い,キャスト法,L B トラフを用いる方法によっ て基板(HOPG,酸化シリコン)上に分散させた。原子間力顕微鏡による分子像の観察の結果,キャスト法によるHOPG 基板上においては,基板結晶表面に沿った分子の配列が観察された。L B トラフを用いて酸化シリコン基板上に展開 した場合は,ネットワーク状の配列構造が観察された。観測された分子の高さは,およそ2.4 nmであり計算で求めた 値のおよそ半分であるが,これも基盤上での吸着と,原子間力顕微鏡のカンチレバーによる圧縮のためと考えられ る。この酸化シリコン基板の凹凸はおよそ 1 nmであり,分子の直径が小さな物では分子像の観察はできなかった。 今回合成した分子を用いるとかなりの凹凸がある表面でも分子像の観察が可能であることが明らかになった。更に ネットワーク構造に金属電極を蒸着させ,電導性原子間力顕微鏡を用いて電気伝導性の測定を行なった結果,分子 上における電流観測が示唆される結果を得た。

c) これまでに報告されたクーロンブロッケード現象は,金属の微粒子を用いており,微粒子の体積により決まる静電 反発エネルギーにより生じている。分子は,分子軌道により決まる電子順位を持っており,電子が注入されるとその 次に入ろうとする電子がその順位により決まる静電反発により同様のクーロンブロッケード現象が見られるはず であると考えた。金属微粒子であると室温でクーロンブロッケード現象を観測するには 1 nm以下の直径が必要で あり,このサイズの大きさのそろった微粒子を作成することはそれほど容易ではないが,有機分子であれば本質的 に全ての粒子=分子が同じ静電エネルギーを持つことになるので,クーロンブロッケード現象を利用した単電子素 子の材料としては金属微粒子よりも優れた物になることが期待できる。しかし,通常の有機分子であれば,1電子が 注入された段階でアニオンラジカルになりあまり安定ではない。そこで,いくつかの安定な酸化還元状態を取るこ とが可能な有機金属錯体を用いることにした。ルテニウム錯体の周辺をデンドリマーで覆いトンネルギャップとし た分子を合成し,これと絶縁体ポリマーの混合物を約 20 nmのギャップを持つ電極にキャストした。その電気特性 をはかるとdI/dV-Vスペクトルにおいて比較的再現性良くピークが観測された。これは,当初期待していた分子によ るクーロンブロッケード現象であると考えている。

d)ルテニウム錯体の両端にターチオフェニルをつけた分子をポリマー化させ,約20 nmのギャップ電極につけたデバ イスを作成した。このデバイスのI-V 特性を種々の温度で計測した結果を,様々な伝導機構を用いて解析した。その 結果,電圧領域,温度領域により伝導機構が異なることが,わかりフランケループール型の伝導や,ショットキー型 伝導などが重なり合っていると考えると実験結果が解析できることがわかった。この実験において,伝導に関わっ ている分子の数はおよそ数百∼千分子程度と見積もっている。単分子におけるこうした緻密な計測はまだ行われて いないが,同様の解析が可能になると考えている。

e) ポルフィリン環に4つないしは8つのアルキル鎖を付けその末端にジスルフィド基をつけた分子を合成した。その 大きさは,3–5 nmであり,ジスルフィド基が金に吸着すると最大で5 nm四方の面積を一つの分子で覆うことが可能 になる。今回は,この種の分子を金ナノ粒子に吸着させ,一つないしは二つの分子が金ナノ粒子一つに吸着した化学 種を作り,分子同士の相互作用を利用してこの金ナノ粒子を自己組織化させる試みを行った。予備的な実験におい て作成した生成物の走査電子顕微鏡像においては,様々な形状を持つナノ粒子組織体と思われる物ができている。 現在,この組織体の透過電子顕微鏡による解析を行う予定でいる。

f) もっとも自由度が高く一般的なナノ構造の作成方法は,電子線描画装置を用いる方法であり,現在のC PUなどに用 いられている V L S I も元の回路パターンはこの手法で作成されている。最先端の技術では既に 10 nmを切るパター ンを作成することも可能であるが,装置が非常に高価である,ランニングコストも高額である,走査によりパターン

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を作るため複雑なパターンは長時間かかり多量生産には不向きであるなどの欠点がある。そこで,より安価に,電子 線描画装置よりも微細なパターンを描画でき,多量生産が可能である手法を開発中である。こうした方法として,ナ ノ球の自己集合を利用したナノ球リソグラフィーや,分子定規法が既に報告されているが,この手法を発展させた, ナノロッドや様々なナノ構造体の作成を行っている。

g) ナノ構造体の電気特性を再現性良く,高精度で計測する装置として多探針電導性原子間力顕微鏡(MP-C A F M)を開 発中である。多探針走査トンネル顕微鏡(MP-ST M)は,既に市販品があるが,原子間力顕微鏡はまだ実働している物 は世界中で1台もない。しかし,電導性がそれほど高くない単一分子の電気伝導を計測することは,MP-ST Mでは不 可能であり,MP-C A F Mが必須である。この装置を電導性カンチレバーで使用することで,分子スケールの万能プロー バーとすることが目的である。この装置が完成すると,上記で作成した様々な新規ナノ構造体の電気特性が効率よ く,高精度で計測することが可能になる。現在,物材機構,J E OL との共同研究体制を整えているところであり,来年 度中には完成の予定でいる。

B -1) 学術論文

H. SATO, E. SENBARA and T. OGAWA, “Synthesis and Properties of Meso-Tetraaryl Rhodium Porphyrin with Axial Ligand of Molecular Wire,” Int. J. Nanoscience 1, 489–494 (2002).

S. MAEDA and T. OGAWA, “Formation of Gold Nano-Particles/Oligothiophene Dithiols Composite Thin Films between Micro-Gapped Gold Electrodes and Their Electronic Properties,” Int. J. Nanoscience 1, 557–562 (2002).

H. OZAWA and T. OGAWA, “Synthesis of Thick Porphyrin Molecular Wires by a Palladium Catalyzed Oligomerization,” Int. J. Nanoscience 1, 483–487 (2002).

H. ENDO and T. OGAWA, “Synthesis of Novel Nano-Meter Size Ruthenium Complexes for Single Electron Charging Devices and Their Electrochemical Properties,” Int. J. Nanoscience 1, 631–635 (2002).

M. E. ANDERSON, R. K. SMITH, Z. J. DONHAUSER, A. HATZOR, P. A. LEWIS, L. P. TAN, H. TANAKA, M. W. HORN and P. S. WEISS, “Exploiting Intermolecular Interactions and Self-Assembly for Ultrahigh Resolution Nano- lithography,” J. Vac. Sci. Technol., B 20, 2739–2744 (2002).

E. MOURI, T. NAKANISHI, N. NAKASHIMA and H. MATSUOKA, “Nanostructure of Fullerene-Bearing Artificial Lipid Monolayer on Water Surface by in Situ X-Ray Reflectometry,” Langmuir 18, 10042–10045 (2002).

T. NAKANISHI, M. MORITA, H. MURAKAMI, T. SAGARA and N. NAKASHIMA, “Structure and Electrochemistry of Self-Organized Fullerene-Lipid Bilayer Films,” Chem. Eur. J. 8, 1641–1648 (2002).

T. NAKANISHI, I. YILMAZ, N. NAKASHIMA and K. M. KADISH, “Thermodynamic Study of Ion-Pairing Effects between Reduced Double-Decker Lutetium(III) Phthalocyanines and a Cationic Matrix,” J. Phys. Chem. B 107, 12789–12796 (2003).

I. YILMAZ, T. NAKANISHI, A. GÜREK and K. M. KADISH, “Electrochemical and Spectroscopic Investigation of Neutral, Oxidized and Reduced Double-Decker Lutetium(III) Phthalocyanines,” J. Porphyrins Phthalocyanines 7, 227–238 (2003).

B -3) 総説、著書

小川琢治 , 「単一分子ないしは少数分子の電気特性の研究の最近の展開」, Electrochemistry 71, 952–955 (2003).

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田中啓文, 「自己組織化分子膜を用いたナノ構造制御∼分子間相互作用と自己組織化を超高精密ナノリソグラフィーに利 用する∼」, 応用物理学会薄膜・表面物理分科会 ニュースレター 118, pp.10–18 (2003).

B -4) 招待講演

小川琢治, “Synthetic Approach toward Molecular Nanoscience,” Molecular and Bio-electronics International Conference 2,

東京 , 2003 年 3 月 .

小川琢治, “Nanotech roundtable Self-organization in Nanotechnology,” organized by Nanotechnology Research Institute,

National Institute of A dvanced Industrial S cience and T echnology, 東京,2003年 3月.

小川琢治, 「合成化学からのナノサイエンスへのアプローチ」, ナノ支援京都シンポジウム, 京都 , 2003 年 3 月 . 小川琢治, 「ナノ電極で測る」, 日本化学会春期年会・先端ウオッチング , 東京 , 2003年 3月 .

小川琢治, “Design and synthesis of organometallic complexes optimized for molecular electronic devices,” International Symposium Nano-Science of Advanced Metal Complexes, 岡崎市, 2003年3月.

田中啓文 , “Fabrication, Observation and Measurement of Nanostructures,” International Conference on Nanoscience of Advanced Metal Complex, 岡崎市, 2003年3月.

田中啓文, “Nonconventional Lithography Utilizing the Molecular Ruler Method,” Tae Kyung Ahn, Sang Min Kim and Paul Weiss, ME&D14, Seoul (Korea), March 2003.

小川琢治, 「分子ナノサイエンスのための有機合成」, 九州大学21世紀 C OE 講演会 , 福岡 , 2003年 5月 .

小川琢治, 「サブミクロン−ミクロンサイズπ-共役分子系の合成的研究」, 学術創成研究費「分子・DNAレベルの素子」研究

会 , 東京工業大学すずかけ台キャンパス, 2003 年 7 月 .

田中啓文, 「自己組織化で得られる単分子多層膜を利用した新リソグラフィー法 = 分子定規法」, 電気通信大名取研セミ ナー, 2003年 7 月 .

小川琢治, 化学技術戦略推進機構「単一分子発光研究会」, 東京 , 2003年 9 月 .

田中啓文 , “New lithography method using molecular ruler,” Seminar in Univ. of Pittsburg, 2003年9月.

小川琢治, 「分子ナノ科学への有機化学的アプローチ」, 産業技術総合研究所特別セミナー, つくば市 , 2003年 11月 . 小川琢治, 「単一・少数有機分子の電気特性計測のための有機化学的アプローチ」, 東北大学金属材料研究所研究会「ナ

ノカーボンエレクトロニクス」, 仙台市 , 2003 年 11月 .

小川琢治, “Organic Synthesis for Molecular Nano-Science,” The 11th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy,

熱川 , 2003 年 12 月 .

小川琢治, 「有機・無機ナノ構造体の創製とナノサイエンス」, 機能性有機電子材料専門委員会(J E IT A ), 東京, 2003年12

月 .

小川琢治, 「無機・有機ナノ構造体の作成とその電気特性」, 核融合科学研究所 NIF S セミナー, 土岐市 , 2003年 12 月 .

中西尚志, 「フラーレン・フタロシアニン・ルテニウム二核錯体を素材とした機能性薄膜修飾電極の構築及び機能解明」, 東 京都立大学第 32 回理学部化学科コロキウム, 八王子市 , 2003年 12月 .

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B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

独立行政法人通信総合研究所基礎先端部門関西先端研究センターナノ機構グループ併任職員 (2000- ). 日本学術振興会産学協力研究委員会「分子ナノテクノロジー研究委員会」委員 (2001- ).

日本学術振興会「次世代エレクトロニクスに向けての物質科学とシステムデザインに関する研究開発専門委員会」委員 (2001- ).

文部科学省 科学技術政策研究所科学技術動向研究センター 専門調査員 (2001- ).

国際高等研究所 特別研究「次世代エレクトロニクスに向けての物質科学とシステムデザイン」プロジェクトメンバー (2001- ).

応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会幹事 (2002- ). A sia Nano国際会議,組織委員 (2002).

産業総合研究所 客員研究員 (2003- ).

科学技術振興事業団 戦略的基礎研究「精密分子設計に基づくナノ電子デバイス構築」 チームアドバイザー (2003- ). 科学研究費の研究代表者、班長等

小川琢治 , 萌芽(No.14654135), 研究代表者 (2002-2003). 小川琢治 , 基盤研究 A (No.15201028), 研究代表者 (2003-2006).

B -8) 他大学での講義、客員

愛媛大学理学部 , 集中講義「コンピュータ化学」, 2003年 8月 4-5日 . 東京都立大学理学部 , 集中講義「ナノサイエンス」, 2004年 2月 4-5 日 .

C ) 研究活動の課題と展望

A -3の項で述べた以外に,これからの課題として次のことを考えている。

・ 全自動合成装置を使った巨大分子の合成法の確立:巨大分子を合成するのは,いまだに非常に時間と労力がかかる 作業である。しかし,その大部分は単純作業であり,自動化が可能であると考えている。今年度の科学研究費助成金 により購入した全自動合成装置を利用して,単にプログラミングするだけで任意の組み合わせと大きさの巨大分子 を合成できるシステムを開発したい。これにより,これまで不可能だと考えられていた複雑な巨大分子も合成が可 能になると考えている。

・ 新規電極材料,新規分子−電極結合法の研究:単分子の電気特性は分子−電極の界面の影響を大きく受けているこ とがわかってきた。これまでの金−チオール以外の手法で分子を電極につなげることが必要である。

・ 単分子デバイスの光機能の研究:単分子レベルの受光,発光の研究を行いたい。

*)2003 年 2月 1日着任

参照

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